MAREAM

flowting door — Maream

──クラブイベントやパーティーの開催が難しい状況が続く中で、どのように制作に向き合ってこられましたか。

パーティーが続々と中止になって不安になることもありましたけど、そのぶん自分の本当にやりたいことや内面について考え直し、その結果を音楽制作にアウトプットすることができたので、いい機会でもあったかなと思います。

というのも、今まではこういう曲で、あのレーベルのあの曲みたいなのが良いテクノなんだって、曲に対する「正解」のイメージを強く持ちすぎていた気がしていて。どこかでリリースを意識して「私らしい音楽」を作っていたような感覚がある。Flow Machinesを使ったことで、音楽はもっと自由にアレンジしていいんだと気が付きました。今回の楽曲「flowting door」は、そういった固定観念から離れて柔軟に作ることができたかなと思います。

──どのような環境で楽曲を制作していますか?

MacBookとモニターとMIDIキーボードというミニマルなセッティングです。曲を作り始めた頃から変わっていないですね。実機に触ることももちろん好きですが、移動のしやすさを考えると、このくらいミニマルな方が、どこに行っても普段通りの制作環境を整えることができるので。

──移動を前提としたセッティングなんですね。

そうですね。DJとして活動する中で、次第に世界中を飛び回るDJになりたいなと思うようになって。一度、KEN ISHIIさんの奥さんに「KENさんって今どこにいらっしゃるんですか?」と聞いたら、(自分の夫なのに)「ちょっと分からないんだよね」と言っていたことがあったんです。飛び回りすぎて、どこにいるのか分からない(笑)。そんな、ちょっと謎めいた存在に憧れています。

国外での出演機会をいただく中で思ったのは、とくにヨーロッパはテクノが音楽の文化として根付いているということ。良くも悪くも誰がプレイしているのかは重要ではなく、とにかくそこに音楽があればいい、という価値観があって、私のような若手もDJしやすいフラットな環境です。将来的には国内外問わずに活動できたらと考えています。

──Flow Machinesを使った制作はいかがでしたか?

コードに関しては知らないことも多くて、あまりメロディーをバシッと決めて作らないんです。Flow Machinesはジャンルやスケールごとにスタイルパレットが分かれているので、コードに詳しくない私でも「○○風のジャンルの音」とか「○○っぽいメロディー」と感覚的に組み立てられる点が扱いやすかったです。

新しいプラグインやソフトウェアを使うときは、まずは仲良くなるためにとにかく触ります。今回もいろんな箇所を触りながら試行錯誤を繰り返して、しっくりくる音色を探っていきました。そういう意味では、いつもとは逆のプロセスだったかもしれません。Flow Machinesの提案には自分では思いつかないような多様なメロディーの提案があり、発見もたくさんありました。

──「flowting door」は、普段のMareamさんの楽曲とは印象が異なりますよね。

普段はしっかり4つ打ちの曲が多いですが、今回は浮遊感のあるエレクトロニカ寄りの曲調ですね。2021年12月にスタイルパレットに追加された「Happy Holidays」がかわいいメロディーだったので、取り入れているんですよ。ノイズやエフェクト系の音に当ててみたりして、どう変化するか試しながら形作っていきました。スタイルパレットは、例えば「ポップス」なら本当にポップスのメロディにヴォーカルが乗っているように聴こえる。この再現性の高さには驚きましたね。

──Flow Machinesを使ったことで、発見や気づきはありましたか?

これまではリズムから作って曲の骨組みにする作り方が定番だったのですが、先にメロディーを作ることでリズムの打ち方が決めやすくなる、というのは新たな発見でした。いつもメロディーで苦しんできたんですよね。フレーズが思い付かないこともあるし、コードが分からないから、キーを一つひとつ押さえながら感覚で探っていくしかなかった。そういうタイプの人にとっても、Flow Machinesは心強い存在になると思います。

また、UIも直感的でした。操作画面の左側にある「ハーモニー」というボタンを触るだけで、音が様変わりして全く違うメロディーになるんです。メロディーやコードだけではなくて、リズムの打ち方やパーカッションまで提案できるようになったら、さらに面白くなりそうです。リズムでも自分のパターンや癖に囚われてマンネリ化するときがあるので、そういうときに精度の高い提案があると便利だろうなと思います。

──「AIとの楽曲制作」に対してどんなイメージをお持ちでしたか?

AIがメロディーを提案すると聞いて、最初は「このままアイデアがAIに取って代わられるのでは」という不安があったのですが、Flow Machinesの提案は自分のアイデアを元に生成されていて、これはむしろアイデアを拡張するツールなんだと思いました。手足が増えたような、表現の幅が広がったような感覚です。

──AIと音楽家の未来について、考えをお聞かせください。

AIがより発達すると、私が作るメロディーやコードの傾向を把握し、傾向に沿ったものはもちろん、意外性があって、かつ私の好みにも合うフレッシュなメロディーやコードを提案する、という精度に到達するんじゃないでしょうか。そしてAIが楽曲制作にフルコミットするようになったとき、音楽家はAIをチームメンバーの一人として捉えるようになるかもしれません。ただし、楽曲制作に関しては、やはり人間のアイデアが根幹にあります。ゼロをイチに変える部分は、やっぱり人間です。だからこそ、これからも音楽家とAIは共存できるだろうなと思いました。