ESME MORI

流転 — ESME MORI

──音楽の道に進んだきっかけは?

大学1年生のときにGarageBandでインストの曲を作り始めて、デモ音源をいろんなレーベルに送ったんです。 それがきっかけでLOW HIGH WHO? PRODUCTIONと出会い、EPの発売やアーティストへの楽曲提供の機会をいただきました。

その後の数年間でたくさんの出会いがありましたが、現在も所属しているPistachio Studioのメンバーと知り合えたことはとても大きな出来事でした。彼らの心から音楽を楽しむ姿勢は、音楽に対してストイックになりすぎていた当時の自分にはとても新鮮に映りましたし、物事の見方を変えてもらったと思います。僕にとって、音楽活動をする上でのホームのような場所ですね。

──アーティストと協働することが多いと思いますが、コミュニケーションにおいて意識していることはありますか?

プロデューサーには、音楽を言葉で表現する力や、相手がどんな音を求めているかを汲み取る能力が求められます。「ここをもっとエモくしたい」と言われた時、どう解釈するか。スネアの音ひとつとっても、その表現方法は千差万別です。言葉の大切さを意識し始めてから、単に自分が納得いくかだけではなく、相手が聴いても自分の意思が伝わる音になっているかを確認するために、様々なシチュエーションで音を聴くようになりました。制作用にサブウーファーも鳴らせる防音の部屋を借りていて、そこではスピーカーで鳴らして聴いたりもしています。

──現在の制作環境を教えてください。

MacBookでLogic Proを使っています。なるべくミニマムにすることが一番自分に合っていると思っていて。何かアイデアが思い浮かんだときに、決まったソフトを立ち上げて作り始められる環境がとても楽ですし、このアクセスの良さが大切ですね。

──Flow Machinesを使って楽曲制作をした感想を教えてください。

「カオスなソフト」という印象ですが、秩序を与えれば、そのカオスが面白く展開してくるツールかなと思います。今回の楽曲では “秩序” として、1コードという縛りを自分に与えています。下敷きをシンプルにすることで、Flow Machinesがどんなことを提案してくれるのかを楽しみたいというねらいもありました。

──普段のプロデュースワークやソロの楽曲と比べるとかなり実験的な印象を受けました。

昔はこういう曲調ばかり作っていたので、原点回帰という感じですかね。ひとまずアンビエントにしようというくらいで構成はほとんど決めず、心の移り変わっていくままに作っていきました。後半、より不思議な感覚になってほしくて、ビートが入ってくるところからBPMを169にしています。Flow Machinesで作った曲は、メロディーを覚えられないというか、再現不可能であることが長所だと思っています。この曲も、歌おうと思っても絶対歌えないですよね。だからこそ、作っていて飽きなかったです。

作曲中に「これはダサいな」と思うメロディーが浮かぶと、曲を作ること自体が面白くなくなってしまうんですよね。だからなんとかして自分の中にないアイデアを(自分の)外から引っ張ってこようとする。良いと思うメロディーをあえて逆再生してみたり、なるべく思ってもみない方向を探ってみたり。コラボレーターがいるときも、あえて相手の意図からずらして解釈しようとする。そうした動きが、作曲においては重要だと思っています。

Flow Machinesから生まれるメロディーは完全に「他者」が考えたものとして聴けるので、一人で作っているときのような苦労なく取り組むことができました。

──AIとの制作に関してはポジティブに受け止めているようですね。

そうですね。むしろAIを困惑させるような作り方を意識していた部分もあるんです。こちらの入力に対してFlow Machinesが出した8小節のメロディーのうち、あえて1.5小節くらいで切って、残りは全部違う音色で鳴らしたり……Flow Machinesは「そんなつもりで提案したんじゃないんだけど」と思っているかもしれない(笑)。自分だけの「正解」からなるべく離れたい僕にとって、Flow Machinesは良い助けになると思いました。

──Flow Machinesはどのような人に勧めたいツールですか?

自分の引き出しにないアイデアがほしい人にはおすすめです。コードがあって、ドラムがあって、という普通の曲に違和感を取り入れたいときなどは効果的だと思います。今回の楽曲で言うと、冒頭に立ち上がりの遅いシンセサイザーのような音を使っているのですが、こういう音を自分で作ろうとすると、どうしてもキーの中で鳴らす手癖が無意識に出てしまうんです。Flow Machinesの「人間にはない音の鳴らし方」がいいカオスを加えてくれたと思います。

──AIと音楽家の関係についてはどのように考えていますか?

Flow Machinesはメロディーを提案するソフトウェアですが、音楽の要素は他にもたくさんあります。曲の構成やバッキングなどに対するAIの意図が入るようになると、さらに心強くなりそうですね。

個人的には、Flow Machinesのおかげですごく自由に作曲ができたので、今後もAIとの楽曲制作は楽しめそうだと感じています。最初はどう作るか戸惑いましたが、始めてみると迷いなく一筆書きのようにスムーズに進められて。次にAIがどんな音を出してくるか、という興味を保ったまま制作できました。曲作りの楽しさや自分の原点を思い出させてくれる存在として、AIがあるというのも面白いのかなと思います。